県保険医協会 受給者負担の引き上げで国保・医療福祉室と懇談

県が来年度予算案として、2月9日に発表した予算案で福祉医療費給付事業において受給者負担金を300円から500円に引き上げる方針を打ち出した。県保険医協会は2月10日に国保・医療福祉室に撤回を求め要請・懇談を行った。

長野県衛生部国保・医療福祉室への要請(まとめ)

日 時 2009年2月10日 午前11:30~12:00
場 所 県庁国保・医療福祉室
県 側 吉岡室長、黒井医療福祉係長
協 会 宮沢事務局長、新津事務局員
<要請懇談概要>
県が来年度予算案として、2月9日に発表した予算案で福祉医療費給付事業において受給者負担金を300円から500円に引き上げる方針を打ち出した。これは昨年12月の見直し事業には掲げられていない項目であり、県民の意見募集の手続きも踏まれていない。このため、協会としては負担増の方針の撤回を求め、さらに当事者を含んだ福祉医療のあり方を検証する委員会の設置を求めた。
国保・医療福祉室の吉岡室長は、要望については県知事、衛生部長に充分伝えるとしたものの、今回はこの方向で予算案として提案したため今後は県議会で議論することになるとし、撤回の姿勢は見られなかった。
検討会については県と実施主体である市町村が共同設置しており、必要に応じて学識経験者を入れている。福祉医療のあり方検討委員会の提言が基本ベースとなっているので、大幅な国の制度変更等がなければ全体を見直す検討会は不要との考えを示した。
今回の方針は1月23日の検討会の報告にもとづいているため、事前に示すことができなかった。受給者負担額は、乳幼児の通院医療ベースで県、市町村、受給者で1/3づつ負担した場合の金額を目安に出されたもので、平成14年度の提言の無理の無い範囲での負担といった範囲であり妥当とした。
協会からは沖縄県では福祉医療への自己負担導入の方針を撤回したことにも触れ、この経済不況の中で弱者にしわ寄せとなる負担増は行うべきではなく、ましてや当事者の意見も聞かないままに出された方針は撤回し、充分時間をかけて判断するよう求めた。
2月19日から県議会が開会となるが、今後の対応としては、議員・議会会派への働きかけが重要となる。
要請・懇談の内容
宮沢事務局長:12月16日の見直し事業(案)になかった今回の提案が、2月9日に予算案として突如出されて、我々としては受け入れることができない。撤回を求める要望書を会として提出するので、知事、衛生部長に伝えて欲しい。
吉岡室長:この制度は県と実施主体である市町村で共同設置している検討会の場で話し合って進めるといった従前からのルールがあるが、今回検討会が1月23日だったために事前に出せなかった。その点では皆様にはご迷惑をおかけした。
宮沢事務局長:他の見直し事業については、インターネット上でもご意見募集といった形をとっているが、その手順が踏まれていない。県民の意見を反映する場が無いままに予算案として提出されるといったことは納得いかない。また、検討会について、県と市町村の担当者だけで構成されていると思うが、制度発足当初から何度も患者である受給者又はその家族といった当事者の代表を交えた検討会の設置を求めているが一向に聞き入れられていない。これでは実際に利用されている方々の視点が弱く、声が反映されにくい。現在300円の負担があるが、医療機関へ受診して、薬局で薬をもらってそれで600円の受給者負担だ。耳鼻科へいって内科へいってとレセプトごとに負担が発生する。乳幼児の1件当たり、1日あたりの診療報酬のデータを調べてもらえばわかるが、福祉医療の制度はあっても実際のメリットは無いといった声も上がってくると思う。そうした意味も含めて、受給者を交えた検証会を設置願いたいというのが要望項目の2点目にある。そうした検証会をもった上で、充分な時間をかけた上で進めて欲しいので、今回の提案については撤回して欲しい。
吉岡室長:ご要望については、知事及び部長宛にということで、私どもから充分伝えたいと思う。今回、受給者負担金を見直しさせていただいたのは、平成19年の検討会では精神の対象者の拡大と老人については経過措置を設けた上で廃止とさせていただいた。そのときの報告の中で、自治体の財政状況等を踏まえる中で持続可能な制度とするために平成20年度以降においても制度の内容について検討を行うことが適当であるとある。福祉医療制度というのは国から何の補助も交付税措置も無いので、これまで続けてきているが、昨今の状況では税収には非常に厳しいものが出てきている中で、今回の報告の中にも書かれているが、あくまで無理の無い範囲でということで検討会として決定いただいた。今回の検討会については、早急に検討する項目と今後の見直しに向けて中長期的に検討する項目としてまとめさせていただいている。当然、次年度以降も現行のメンバーで引き続き検討させていただく。精神の対象拡大を図る中では当然学識経験者も入れさせていただいている。皆さん方のご意見等も踏まえながら、当然市町村との調整もあるが努力していきたい。
新津事務局員:精神の拡大について学識経験者を入れるのは当たり前だが、この前は老人の廃止については当事者を入れないでというのはおかしいと指摘した。そのときも良く伝えて検討するとした。それをやっていないということだ。
宮沢事務局長:検討会に患者代表は入れるつもりは無いといった理解でよいのか。
吉岡室長:これまでも検討会は県と事業主体である市町村が共同設置するという形があるので・・・
新津事務局員:それは事業の検討会であって、福祉医療の見直しについての協議会があったがそれをやっていないということをいっている。
吉岡室長:その点では、平成14年に提言をいただいたあり方検討委員会の取り決めは今でも尊重していきたいと思っている。それが基本的な部分だと思う。
新津事務局員:見直しの検討会は全然開かれていない。
宮沢事務局長:県と市町村の検討会ではなく、見直しするための検討会を何度要望しても開いていないといっている。
吉岡室長:基本的には平成14年の提言が今現在も、現行の制度の中で充分にまかなっていけると思っている。ただし、そうした中でも不均衡部分については是正していかなくてはならないし、制度的な見直しがあって当然調整していかなくてはならない部分は見直していく。基本線は平成14年の提言となる。
新津事務局員:どこを向いているかの問題だ。受給者の負担というのは重大な問題だ。
宮沢事務局長:あり方検討委員会で、自動給付方式というものを提言したわけだが、検討の中では我々が求めている窓口無料化も議論されていた。窓口無料かも含めて自動給付方式でこのままいくのかといった検討会をわれわれは求めている。
吉岡室長:あり方検討会は5回に渡って開かれているが、そのときに議論になったのは国民健康保険法の国の定率負担、或いは調整交付金の減額措置や健康保険における付加給付の関係が当時と今とで変わっているかというとなんら変わっていない。あくまで福祉医療は現行の制度を補完するといった意味で制限を受ける。
新津事務局員:それは、300円の負担でクリアした。それなのに、今回500円とするといったのはなぜか。
吉岡室長:提言を見ていただければわかるが、この制度を長期にわたって持続可能な制度とするために受給者負担金をもうけた。
新津事務局員:あなたが先ほど言ったように国の減額措置を受けないために、この方式を取り入れたのではないか。それなら300円でのままでよいわけだ。
吉岡室長:それは、自動給付方式を取り入れるための話であって、今回の話は、制度全体を見た場合に、医療費が伸びている中で福祉医療給付額も伸びてきている。そうした中で制度を持続させるためにはどうするかといったことであり全く別の問題だ。
新津事務局員:制度の持続性といったことで、資格証明書の発行といった制度を作っているのと一緒だ。実施主体だけの検討会だけでは制度の持続可能といったことで都合の良い制度にしてしまうだけの結論となる。実際利用している人たちの意見はどうやって反映させるのか。
宮沢事務局長:これまでアンケート調査とかやっていないのか。
吉岡室長:いずれにしても今回喫緊に行うものとこれから検討するものがあるわけで、新年度に向けてはアンケート等を行っていくということは検討したい。
宮沢事務局長:今回の提案はこのまま決めるわけですね。
新津事務局員:アンケートなど行った上で決定していくべきだ。
吉岡室長:意見として伺って、伝えたい。
宮沢事務局長:例えば、最近のニュースでは沖縄県でも福祉医療に自己負担金を乳幼児や障害者に設けるといった提案が示された。しかし、昨今の経済状況で、特にそのしわ寄せを受ける弱者に対して負担が大きいといくことで方針を撤回したと聞いている。そうした姿勢は長野県にも見せて欲しいがどうか。
吉岡室長:沖縄の場合は新たに導入するということで、金額も通院で1000円、入院で2000円ということできわめて高額な提案だったと思う。それは各県の考え方によると思うが、私どもとすれば当初平成14年の提言でも無理の無い範囲で300円程度という話があった。今回も検討に当たってその縛りは当然あると思っている。今回5000円といった金額を出してきたのは、過去3年(平成17年?19年)で見たときに医療区分の中で一番低いのは乳幼児の通院の場合の1レセプトあたりの金額だ。それをみると1,727円だった。これに対して、県と市町村と患者でそれぞれ1/3づつ負担しあうとした場合に570円くらいであった。それを更に(患者負担を)弱めるということで1レセプトあたり500円という金額を検討会として打ち出してきた。
新津事務局員:なぜ、1/3づつ負担しなければいけないのか。
吉岡室長:もともと、受給者負担金のベースになっているのは一部負担金だ。それが、2割負担、3割負担であったりするが、自己負担部分について福祉医療として県と市町村でそれを補助していくのが福祉医療制度の根幹だ。
新津事務局員:乳幼児はそうした計算ということだが、障害者はどうか。
吉岡室長:障害者の負担金は当然それより高くなっているので、一番低い金額の乳幼児に合わせたということだ。
新津事務局員:信毎の報道では中程度の負担とあるがどういうことか。
吉岡室長:医療費が確定している平成18年度において、自己負担額に占める受給者負担金の割合について各県に照会を出した。回答が26あった。1レセプトあたり300円とした場合には19位であった。仮にそれを500円にした場合は13位ということで丁度中位ということだ。
新津事務局員:それは有料だけの話ではないか。自己負担なしは乳幼児で12、障害者で23の都道府県が実施している。無料分をカウントしないといけない。
吉岡室長:まず考えなければいけないのは平成14年の提言のときに自動給付方式で受給者負担金を入れるといった決定がされて、これをベースにして考えなくてはいけない。ここで(負担金を)はずすとなればそれは新たな考え方になるのでその時点ではもっと広く検討していくことが必要になってくると思う。
新津事務局員:それは提言を自分の都合の良いところだけとってやっているご都合主義だ。無料化も含めてトータルで比較しなくてはいけない。
吉岡室長:例えば、あり方検討委員会の提言では父子の関係では市町村民税非課税世帯だったところを均衡を図る必要があるということで改善してきた。都合の良いところだけをつまみ食いしているわけではない。あり方検討委員会は学識経験者、県と市町村等が約8ヶ月に渡って検討してきた中での結論で、実際実施したのは平成15年の7月からなのでまだ5年くらいしか経っていない。我々としては提言を尊重せざるを得ない。ただし、(負担金を)何千円とするとかいうことは、あり方検討委員会が想定しているものでありませんのでそうした中で検討している。例えば、平成19年度で見たときに、福祉医療費の対象となるレセプト件数は約310万件、実際平成19年度に受給された方を見ると約27万人。一人年間に12件、慣らして考えると一人2400円の負担増ということになる。他県の状況とか実際に負担いただいている乳幼児の通院といった一番低いところで金額的なものを考えた中で導き出された数字と考えている。
新津事務局員:先ほども言ったが、1機関では受診がすまないケースもある。
吉岡室長:薬局での部分、診療所での部分があるがそれらを全部含めて大体それくらいの金額ということだ。
宮沢事務局長:平均してしまえばそうかもしれないが、受診する側から見れば先ほど言った矛盾も生じる。
吉岡室長:窓口で支払うときに当座のお金が無いという方もいらっしゃると思う。そうした方には貸付制度というのが設けられている。制度発足当初は福祉医療制度に係る貸付制度ということで独自に設けなければならなかったが、これについては昨年3月に通知を出して、既存の貸付制度等を利用した場合であってもこの福祉医療制度の貸付制度の対象としても構わないといった通知を出した。貸付制度を使った場合には受給者負担金については県の補助金としてもいただかないようにするとした。だから、本当にお困りの方にはそうした制度を全市町村で使えるようになったので、周知を図っていきたい。
新津事務局員:100年に一度といった不況のときに全くの弱者である子どもや障害者の健康や医療を守るといったことは当たり前であり、沖縄県を見習うように引っ込めるというのは当然だ。
吉岡室長:こうした状況になると様々な要望が出てくる。行政としてもそれに応えていかなくてはならない。県の中でも医療一つとっても医師が足りない、地域医療がまだ充分ではない、或いは保育などいろいろな問題がある。様々な要望に応えていく中で、福祉医療の中でも、いままで税の中で負担いただいてきた部分、(事業としては)税と受給者負担金しかないわけで、その中で幾分かは受給者の方にもご負担いただくことになるが、今は福祉医療を行うにあたっても医師がいなくてはどうしようもないのでそうしたことにも活用させていただきたい。
宮沢事務局長:要は福祉医療については優先順位が低いということか。昨年も老人の部分を廃止して、今回は受給者負担を増額する。
吉岡室長:そうではない。福祉医療の県の事業費は平成20年度と平成21年度の当初予算で見たときにどうなるかというと、平成21年度予算の方が受給者負担を500円に増額しても金額的には多くなる。
宮沢事務局長:検討会がどういった議論をしているのか調べても情報が無い。福祉医療費への県の負担が増えているといった報道は目にしているが、実体がわからない。そのあたりの資料提供を求める。
吉岡室長:検討会の都度全市町村に資料等を配布しているので、福祉医療費が伸びているといったものはお渡ししたい。
新津事務局員:10月から実施ということだが、通年でみるとどうなのか。
吉岡室長:福祉医療費自体は増える。
宮沢事務局長:今回県と市町村の負担がそれぞれ3億円減るとの事だが、それ以上に福祉医療費の伸びがあるということか。
吉岡室長:平成19年度の数値で県の補助金だけで42億円になった。平成14年から平成19年までの5年間を比べると137.4%増となっている。これは年平均のベースで見ると7.5%、金額ベースでいくと2億3千万円づつ補助金が増えている。
宮沢事務局長:福祉医療費が伸びているといった状況をどう分析しているのか。ただ単に、伸びているからそれを抑えるといった、医療費適正化の計画と一緒の考え方か。
吉岡室長:我々の基本的スタンスは現行の福祉医療の給付水準は何とか守りたい。しかし、給付がこれだけ伸びて、税収が下がっている中では無理の無い範囲で受給者負担金も増やしていただきたいといったことだ。
新津事務局員:医師不足にも使うといった話があったが、衛生部とか社会部といった中でみるだけだからいけないのであり、県全体で見れば余計なものがあるのではないか。
宮沢事務局長:衛生部の強い発言力を期待する。
吉岡室長:上層部には伝えておく。
新津事務局員:いつもそういうが、衛生部だけで見た場合には削るのはどれかといったら今回のようになってしまうのは当たり前だ。それを当初見直し(案)にもないことをいきなり提案してくる。障害者推進協議会と先月懇談したばかりと聞いているが、そのときにもこの話は全く触れられていないとのことだ。
宮沢事務局長:1月23日に検討会の結論が出たというのなら、当事者の意見を聞くよい機会だったではないか。あえて隠していたのか。
吉岡室長:そうしたつもりはない。検討会の結論が出た段階だったもので・・・
新津事務局員:それを即座に話すべきだ。
吉岡室長:県としての正式決定は2月9日となる。
新津事務局員:なぜ、当事者には何も聞かないままに決定するのか。障害者の自己負担なしというのは他県では多い。
宮沢事務局長:時間が超過しているので、必要があればまたお邪魔したいが、部長、県知事には要望をしっかり伝えていただきたい。何度もいうが、県民の声を聞く場がもたれていないことは重大な手続きのミスだと思う。少なくとも今回は撤回していただき、県民の声を聴いた上で判断して欲しい。検討会については県と市町村でこそこそやっていると思われないためにも議事録や報告をオープンにすることも要望する。
吉岡室長:要望は充分伝えたい。
新津事務局員:これからパブリックコメントをもとめるつもりはあるのか。
吉岡室長:今回県全体として公表させていただいたので、これからは議会等を通じて様々な議論がされることになる。
新津事務局員:県民の声はきかないでやってしまおうということになる。
吉岡室長:今回はこれで方向を出されてしまったということがあるので、皆様方の代表である議会の中でいろいろお聞きすることもあるかと思う。
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