県議会委員会ですすめる会の役員も務める番場誉医師(小児科)が意見陳述を行った。発言を以下に紹介。
まずはじめに、日頃の子どもの健康医療分野における皆様のご尽力に心から感謝申し上げたい。数年前に導入された髄膜炎ワクチンの普及で小児科の現場においては素晴らしい変化が今、起きている。数年前まではちょっとの熱であっても「様子をみてください」とはとても言えない恐ろしい細菌性髄膜炎という病気があった。ワクチンの普及で熱が下がらなくて続いたとしても、「安心してください。ワクチンを打っているから髄膜炎は考えられない。
安心して朝まで休んでください。朝まで様子をみて大丈夫ですよ」と言えるようになった。数年前までは夢のような話。小児科の医療は確実に進歩して重症化が減っていることを報告したい 。
?子どもの医療費窓口無料化についての願いは、子育てに係る世代のすべての県民の願いであると思っている。全ての県民ということは、お金がなくて困っている人だけでない。短期間に署名が集まった理由を述べさせてもらう。
?理由のひとつは、現在の償還払い制度への疑問を多くの人が持っている。
いったん支払って、結局は戻ってくるのに、手数料を値上げせざるを得ないほど行政に手数をとらせて償還払い制度が続くのはどういった理由なのだろうかが県民の多くがもつ疑問。他の都道府県では圧倒的に窓口無料が主流なのにどうしてかと、そういった疑問が署名には託されている。
二つ目は、これこそが本筋だが、お金がなくて子どもの受診を断念している、そいう家庭が少数であっても存在 していることは、仲間の小児科医でしばしば話題になる。これは小児科医としては見過ごせない出来事。
「受診してもらえない」というこことがいかに子どもの医療では危険なことかということ。その理由を2つあげる。
?一つは、子どもの病気は大人の病気と違って、気軽に検査ができない。或いは大掛かりな検査を最初からできない。子ども自身がここが具合悪いとうまく言えないので、結果として症状の移り変わりを直に観察することが私達の役目となり、その中で隠れている重大な病気を発見する。そういう医療こそ、もっとも効率がよくやさしい小児医療なのだとの信念でやっている。
?だから、まずは心配事があるならかかっていただく、それで良くならなかったら、また来てもらう。それでやっぱりこれはおかしいかな、と診断をつけていくというのが小児科医療の真髄。とにかく我慢せずにかかってもらうことがなければ、小児科医療としてはアウトだと思っている。我慢ができなくなったから来た、それも夜になって我慢が出来なくなって来た。過剰な医療はこういうところで生まれる。こまめに診ていれば、そういうことがない効率のいい小児医療が展開できると職業がら思っている。
2つ目の理由は、お金が払えないから受診しないという家庭は、それこそリスクの高い家庭だとわかっている。
経済格差が健康格差ということ。お金に困っている家庭ほど重大な病気や難問の多い家庭。虫歯にしてもそう、発達の問題もそう、もしかしたら虐待の問題もそうかもしれない。危険が多い世帯がお金に困っている世帯で、受診してくれなくなったら手も足も出せない。もっとも手助けを必要とする子どもに手助けの手が届かないが歯がゆい思いをする。
?子どもの重大な病気は、タイミングを逸さなければ簡単に治せるものの比重が高まっている。子どもの受診が抑制される方向はよくない。小児科医として良質な医療を受けていただく、安心していただくにはかかりやすくしなければだめだ、と誰もが思っている。
?窓口無料化にすると、気軽にかかり過ぎるのではと心配することがよくある。ありがたいことだが、この心配は無用だ。なぜなら現在でもコンビニ受診、これはどうかなといいう受診をされる方がある。その方はお金の有無は関係ない。お金があってもなくても気軽にかかり過ぎる人はかかる。かからない人はかからない。お金をタダにしたら、患者が山のように増えて医療機関が困るのではないかということは、無料化実施の隣の群馬県でもそうだが、決してそういうことはない。おそらくそうだろう、と思っている。
?勝手な話をしたが、医療費窓口無料化は総ての県民の願いであり、根拠があまりなくて手数のかかる今の償還払い制度をむやみに継続しないよう、お願いしたい。補助していただけるなら、是非、現物給付、窓口無料の方向でご尽力いただきたい。受診を抑制することは小児の医療にとっては、極めて危険なことだと、と述べさせていただいた。その辺を汲み取っていだきご審議いただけたら思う。(長野保険医新聞2012年7月号より)